自閉症の子どもは、さまざまな場面で強いこだわりを見せることがあります。歯を磨く、食事をするなどの一連の手順や、着る服・食べ物の種類や食べ方など、多様なこだわりを持っているのです。こだわり行動は個人差が大きく、生活のあらゆる場面に及ぶため、対応に困っている保護者の方もいることでしょう。この記事では、こだわり行動について、例を出しながら見ていきましょう。
この記事を読むことで、自閉症のこだわりについて詳しく知ることができます。ぜひお役立てください。
1.自閉症のこだわりとは
自閉症の人は行動と興味に偏りがあり、慣れ親しんだ一定の行動をとる傾向があります。ここでは、自閉症の「こだわり」について詳しく見ていきましょう。
1-1.どんなこだわりが見られるか
- 毎日決まった行動をとる
- いつも同じ服を着たがる
- 同じ食べ物ばかり食べたがる
- 目的地まで決まった道順でないと行けない
- 決まった習慣を完了しないと先に進めない
- 会話の相手に毎回同じ相づちを求める
- 自分の興味があるものに執着する
- 予定外の出来事や初めての場所・人には抵抗を示す
- 人形などを同じ向きに並べる
- 買い物に行くと必ず同じ入り口から入る
1-2.年齢別のこだわりの現れ方
こだわり行動は年齢とともに変化していきます。以下はよくある例です。これ以外にもさまざまなこだわりがあります。
- 幼児期:興味を持つことに対して同じ質問を繰り返す。着る服や偏食などのこだわりがある。同じ絵本を読みたがる
- 学童期:ものごとの手順にこだわるようになる。決められたルールを好む。臨機応変な対応は苦手。学校まで決まった道を通っていく
- 思春期:興味のあることにとことん没頭する。目的のない雑談が苦手
1-3.こだわりの理由、原因
自閉症は、「コミュニケーション」「社会性」「想像力」に困難を生じる特性があります。この中で想像力の困難がこだわりを生む一因となっているのです。
自閉症には、ものごとを抽象化するのが苦手だという特性があります。一つ一つの情報を別々のデータとして認識するのです。たとえばTシャツなら、定型発達の人にはどのブランドでも色や柄が違っても着心地に大差ないことが分かります。しかし自閉症の子どもには、お気に入りの青いTシャツの着心地は分かっても、赤いTシャツの着心地が想像できません。
さらに、自閉症の子は「感覚過敏」も併せ持っていることが多いため、着慣れない服では皮膚にどのような刺激があるか分からず不安になってしまいます。そのため、いつも着ている服を着ることで安心を得ようとするのです。
1-4.こだわり行動の注意点、困った点
こだわり行動の中には、人に迷惑をかけたり周囲から見ると奇異に映ったりするものもあります。そのため、親としてはやめさせたいと思うこともあるでしょう。しかし、本人は悪いことをしているつもりはないため、こだわり行動を突然止められたり否定されたりすると、パニックを起こすことがあります。パニックになると動けなくなってしまったり、反対に暴れたり、ひどく傷ついてしまったりすることがあるので、対応には注意が必要です。
2.自閉症のこだわり行動へのかかわり方、支援について
一口に自閉症と言っても、症状やこだわりの現れ方は個々に大きく異なります。こだわり行動に対しては、それぞれのこだわりポイントに対して、どんな特徴があるかをよく見る必要があるでしょう。
2-1.こだわり行動にかかわるときに大切なこととは
こだわり行動を起こすのには、前述した「想像力の欠如」や「抽象化が苦手」「感覚過敏」などの理由があります。どんな傾向があるかを確かめ、ケースバイケースで対応しましょう。自閉症の子どもは大きな変化は嫌いますが、小さな変化なら受け入れることができます。少しずつ慣らしていきましょう。
2-2.こだわりを終わらせる方法
2-2-1.ものに対するこだわりの場合
- こだわる「もの」をなくす:衣類の場合、洗濯をしてぬれているところを見せると、お気に入りの服以外を選べるようになることもある
- 強要しない:こだわりには理由があると考えて、子どもの言い分をよく聞くことも大切
2-2-2.「最後までやりたい」こだわりの場合
- 終わりを見せる:読みかけの本ならパラパラとめくって最後のページを見せる、DVDは早送りして最後のシーンを見せると終わりを意識することができる
- 数を数える:あと〇回で終わり、あと〇分でおしまいなどのように、具体的な数値で伝えると理解しやすくなる
- 事前に終了を予告する:見通しをつけることで終わりが予測できるようになる
2-2-3.交通に関するこだわりの場合
同じ道しか通れない、決まった電車にしか乗れないなどのこだわりは、思わぬ工事や電車の遅れでパニックになる可能性があります。以下のように段階を踏んで少しずつ変化をもたらしましょう。
- とことん付き合う:まずは希望にしっかりと付き合って安心感を育む
- 見通しを伝える:違う道や電車でも目的地に着くことを教える
- ほかの方法を見せる:ほかの電車の写真を見せるなど、本人が落ち着いているときに、少しずつほかの方法を試してみる
2-3.注意点
自閉症の子どもにとって、こだわり行動は自分を落ち着かせるためや、過剰な刺激から身を守るためのものでもあります。その行動をやめさせる、または変えさせるには、かかわる人との信頼関係が何より大切です。くれぐれも強硬的な態度はとらないよう気をつけましょう。こだわりへの介入方法が分からない場合は、地域の発達障害支援センターに相談してください。
3.自閉症のこだわりに関するよくある質問
自閉症のこだわり行動に関する質問をまとめました。
Q.運動会の朝、娘が体操服を着たがりません。無理やりでも着せたほうがいいでしょうか?
A.「着なさい!」と頭ごなしに言ってもパニックになるだけです。いつも着ている制服にこだわっている場合は、ひとまず制服を着ることを許し、学校に着いたら周囲を意識させて「体操服着る?」と提案しましょう。
Q.息子はミニカー以外に興味を示しません。興味の幅を広げるにはどうしたらいいですか?
A.一つのものにずっとこだわっていても、やがて遊びつくして興味が薄れる時が来ます。そのタイミングを見逃さずに、たとえばブロックなどを与えてみるといいでしょう。ブロックで車を作るなど、それまでこだわっていたものに関連した遊びに誘導すると受け入れやすいようです。
Q.子どもが自閉症かもしれないと思ったら、どうすればいいでしょう?
A.なるべく早く専門の医療機関に相談しましょう。自分で専門医を探すのは難しいものです。地域の子育て支援センターや発達障害支援センターに相談するといいでしょう。
Q.こだわり行動はすべて修正しなければいけませんか?
A.生活に支障がなく周囲に迷惑をかけなければ、自然に見守ってもいいでしょう。お子さんも成長していきます。いつの間にかこだわりを卒業することも多いものです。
Q.こだわり行動への対応に自信がありません。
A.子育ての困りごとを解消するプログラムで、ペアレントトレーニングというものがあります。これは、支援機関で行われている療育を家庭でも行えるような保護者向けのプログラムです。地域の発達障害支援センターに相談するといいでしょう。
まとめ
自閉症のこだわりは永遠に続くものではありません。頭ごなしに禁止するのではなく、一つひとつの行動にしっかりと向き合って、こだわりの傾向に合わせた対応をしましょう。