子どもの多動症は近年大きくクローズアップされ、研究が進められてきました。多動の症状がみられるお子さんの子育ては、何かと困難がつきものです。症状は個人差が大きいため、一人ひとりの特性を理解し、その子に合った関わり方をすることが大切になります。この記事では、多動の原因をひも解き、関わり方や支援について見ていきましょう。
この記事を読むことで、多動の行動には意味があることが分かります。ぜひ参考にしてください。
1.多動の特徴と原因
多動はなぜ起こるのでしょう? ここでは、多動の特徴について理解を深め、原因について考えてみましょう。
1-1.多動の特徴
多動症はADHD(注意欠損・多動性障害)の症状の一つとして知られています。行動を自分でコントロールできず、無意識のうちに動いてしまう状態です。自閉症の子どもにも多動の傾向を併せ持つ子が多くいます。
1-2.多動が発症する原因
1-2-1.多動は先天性のもの
ADHD(注意欠損・多動性障害)が起こる原因はいまだ解明されていません。最近の研究では、行動をコントロールする脳や神経系に先天的な機能異常があるのではないかと言われています。
1-2-2.育て方やしつけ・愛情不足が原因ではない
多動はこれまで、脳の機能障害のほかにも環境要因が影響しあって発現すると考えられてきました。かつては「親のしつけや育て方が悪い」「愛情不足」などといわれたこともありましたが、これは誤りであることが分かっています。
1-3.よく見られる行動
1-3-1.生活面での特徴的行動
- 走り回る:公園・店内・家の中などあらゆる場面で走り回る。夢中で走ったり、気を引くものにつられて駆け出したりして、迷子になることもある
- 飛び出す:気になるものがあると周囲を見ないで飛び出す。車道に飛び出したり、人や自転車にぶつかったりする危険性もある
- 高いところへ上る:室内ではタンスや階段の手すりの上、公園のジャングルジムや滑り台・エスカレーターを何十回も乗りたがるなど。高いところから飛び降りようとするので、安全面の配慮が必要
- 飛び跳ねる:ベッドやソファの上でジャンプをする。禁止されてもやめられず、壊れるまで飛び続けることもある
- 物を投げる:おもちゃや本などの小さいものから、椅子など大きなものまで投げることもある
- 貧乏ゆすり:軽度の多動は走り回ることはなく、椅子に座っていられるが、モジモジした動きをすることがある
- 急に話しだす:いきなり思いついたように話し出したり、人の会話に割って入ったりする
- 大声を出す:大きな声や言葉を何度も繰り返して発することがある
1-3-2.年齢別の特徴的行動
多動は、生後すぐには確認できません。活動が活発になる2~3歳から少しずつ症状が見られるようになり、その後年齢とともに行動に変化が見られます。
- 幼児期:落ち着きがない・じっとしていられない。幼稚園や保育園でほかの子をたたいてしまう、我慢ができずかんしゃくを起こすことがある、物を壊すなどの遊びを好む
- 学童期:小学校に入ると、集団行動のルールが増えることもあり、症状が顕著に現れる。授業中に歩き回る・興味の対象が次々と変化する・突然話しかける・人の話に割って入るなどの行動も現れる
- 思春期:中高生になると授業中に立ち歩くような症状は治まってくる。しかし、頭の中は常に忙しく動いているため落ち着かない。宿題よりやりたいことを優先してしまう・ルールに従うことができない。学習障害(LD)との合併症が目立ってくることもある
1-4.多動のタイプと現れ方
主な症状は、大きく2種類に分かれます。1つは、無意識に体が動いてしまいそれを抑えられない「体の多動」です。もう1つは、「口の多動」で、おしゃべりすることを自分でコントロールできない状態になります。症状は、小学校に入学するころまでに、何らかの形で現れることが多いようです。多くは、保育園や幼稚園で集団行動が始まることで気づいたり、3歳児検診で医師に指摘されたりすることもあるでしょう。
多動と聞くと、授業中に立ち歩いてしまう姿を想像するかもしれませんが、行動の現れ方は多様です。たとえば、常に体のどこかが動いている・高いところに上りたがる・迷子になる・夜なかなか寝ない・一方的にしゃべる・しゃべると止まらないなどの行動がよく見られます。また、力加減が分からずに暴力になってしまう・順番が待てない・気が散って落ち着いて遊べないなど、衝動性が加わった行動が現れることもあるでしょう。
2.多動性の行動を起こす理由について
多動について考えるとき、まず知っておきたいのは、多動の行動は意図的なものではないということです。相手を困らせようとしたり怠けたりしているのではありません。では、なぜ多動という行動をとってしまうのか、詳しく見ていきましょう。
2-1.多動には意味がある
人間が行動を起こす理由は、個人に起因するだけではなく、個人とそれを取り巻く環境とが互いに影響しあって生じます。これは「行動分析学」による考え方です。行動分析学では、子どもが起こす行動や気持ちを本人と周囲との関係の中で考え、問題の解決に役立てることができます。
2-2.行動の意味の捉え方
行動を起こすには必ず原因となる何らかの理由があります。以下によくある行動と考えられる理由の例を挙げておきましょう。
- 要求・興味を満たしたい→高いところへ上る:好奇心が強く、視界が変わるのか楽しくて、高いところへ登りたがる
- いやな状態を避けたい→人をかむ:友達に手を握られて不快に感じたとき、相手の手をかむことで放してもらえた。この経験により、嫌なことから逃れるために、人にかみつくようになることがある
- 注目されたい→人を叩く:家族や先生の注目がほしい場合、友だちを叩いたら注目されたことがきっかけとなることがある
- 感覚刺激の強化→ぐるぐる回る:ぐるぐる回る、足をぶらぶらさせるなど、繰り返し行動による刺激で退屈や不安がまぎれるため、よけいに繰り返してしまう
2-3.多動の理由を見極めることが支援の第一歩
「走り回る」という行動一つとってみても、さまざまな理由が考えられます。たとえば、「感覚刺激を得るため」「エネルギーやストレスを発散するため」「気持ちを落ち着けるため」「苦手や不安から逃げたいため」などです。
理由が違えば対処の方法も変わります。そのため、なぜ多動になっているか、まずは原因を見極めることが大切です。その子に合った接し方をするうちに、行動のパターンや理由が見えてくるでしょう。
また多動の現れは、緊張する場面や不慣れな場所で強まる傾向にあります。日頃の子育ての中で、子どもの特性を理解し、子どもの自立へ向けてサポートしていきましょう。
3.多動の子どもとの関わり方、支援について
前述のように、多動の現れや行動の意味は人それぞれで状況によっても変わります。ここでは、よくある例をもとに、関わり方や支援について見ていきましょう。
3-1.環境を整えると行動が落ち着く
環境を整えることが行動を安定させる上でとても重要になります。たとえば、気が散ることを防止するために、視界に入るものを少なくするといいでしょう。子どもが興味を持ちそうなものは棚にしまう、棚にカーテンや扉をつけるなどの工夫ができます。また、トランポリンなどのように思い切り体を動かせる場所を用意するといいでしょう。
ほかには、本人が落ち着けるものを与えるのも効果的です。自閉傾向のある子の場合は、不安感をなくすことが落ち着きにつながります。本人が気に入っているぬいぐるみや図鑑などの本、手触りのよい布や指先で遊べる粘土など、本人が好むものを用意しましょう。
3-2.伝え方・ほめ方・コミュニケーションの取り方
3-2-1.指示は短く具体的に
ADHDの子どもには、長い説明や抽象的な言葉では伝わりにくいことがあります。指示はなるべく短く具体的な言葉で、一つずつ伝えましょう。言葉より視覚的な情報のほうが受け取りやすい傾向があるため、図やイラストを使うのもいいでしょう。
3-2-2.望ましい行動を教える
問題となる行動をやめさせたい場合、望ましい行動を具体的に教えてあげましょう。たとえば、「ウロウロしないで」ではなく「座っていて」というように、具体的に伝えるようにします。また、「〇分まで」のように見通しが立つと取り組みやすいでしょう。望ましい行動にポイントをつけてごほうびを用意すると励みになります。
3-2-3.すぐにほめる
よい行動はすぐにほめることが大切です。目を合わせて大げさなぐらいしっかりとほめましょう。ほめる言葉も、「すごいね」「えらいね」ではなく、「ルールが守れたね」「その座り方はいいね」など具体的に声掛けしてください。約束を守ってほめられると、自己肯定感が高まります。
3-3.療育支援について
3歳児健診などで多動の可能性があると指摘されたり、子どもの行動に悩んでいたりする場合、療育センターや児童発達支援センターに相談してみましょう。多動の症状によって療育を勧められることがあります。最近は、早期療育が効果的と言われており、1歳半健診で指摘されることもあるでしょう。指摘を受けたらなるべく早く療育の相談をすることをお勧めします。
療育とは、発達障害を持つ子が社会的に自立できるように取り組む教育・支援のことです。療育機関では、一人ひとりの特性に合わせて無理なく発達を促すサポートが受けられます。療育を担当するのは、作業療法や理学療法などの専門家です。少人数制で丁寧に関わっていきます。
3-4.注意点
行動がうまくいかない場合、頭ごなしに叱るのはNGです。叱るより注意するという感覚で、どうしたらよかったのかを具体的に指摘しましょう。その子の特性に合った技法を取り入れて、スモールステップで成功体験を積み重ねることが重要です。
4.多動に関するよくある質問
子どもの多動に関するよくある質問と回答をまとめました。
Q.多動症は治りますか?
A.脳の機能そのものを治す方法は今のところありません。しかし、機能を補う薬を用いたり、適切な行動を身につけるトレーニングを行ったりすることで、学校や社会でもスムーズに生活できるようになります。
Q.多動は遺伝するのでしょうか?
A. 多動と遺伝の因果関係はまだ解明されていません。ただ、家族に多動の人がいる家系では、いない家系より発現しやすい傾向があるといわれています。しかし、体質や環境要因も影響するため、単純に親が多動だからといって子どもに遺伝するというわけではありません。
Q.男の子のほうが多動になりやすいのですか?
A.就学前の幼児期におけるADHDの発現率は、男4~5対女1といわれています(出典:就学前の子供の注意欠損多動性障害(ADHD)の研究)。ADHDは、男子に多動性・衝動性が多く見られ、女子は不注意の症状が多いため、男の子のほうに多動が目立つのです。しかし、多動性・衝動性は12歳ごろから減弱するため、成人になるとADHDの男女比は、ほぼ同率となっています。
Q.出生前に多動症を診断することはできるでしょうか?
A.妊娠中に多動があるかどうかを知るための検査はありません。発達障害は、出生後でも生理学的な検査だけで診断できるものではなく、面談や問診など総合的に診断されています。
Q.大人になると多動の症状はなくなると聞きました。
A.症状がなくなるわけではありません。成長とともに脳や神経も発達し、精神的にも成長することと、経験値が上がることで状況判断ができるようになるのです。「走り回る」よりもっといい発散方法が見つかったことも理由と言えるでしょう。
まとめ
多動は病気ではないので、治療というよりも支援することで、生活に必要なスキルを学んでいくことが大切になります。多動傾向の子は決して「困った子」ではありません。ほかならぬ本人が一番困っているのです。行動には意味があることを知り、集団の中でスムーズな生活が送れるようにサポートしていきましょう。